2009/02/26

君が望む永遠 第6話

学校の帰り道。
いつものように2人で並んで帰る水月と遙。
そこへ、茜も割って入り、賑やかなおしゃべりが始まる。

会社の営業で高校の近くを通りかかった水月は、3年間通った通学路に立ち、そんな光景を思い出していた。

「速瀬さん、何やってるの? 行くわよ」

先輩の声でようやく現実に戻される水月。

一方、遙の病室では、今日も中学校の制服を着た高校生の茜が、窓から遠くを見やっていた。
久しぶりに孝之に会いたいと言い出す姉の遙を、少しきつい口調で諭す毎日が続いていた。

「ダメだよお姉ちゃん。お兄ちゃん、受験勉強で忙しいんだから」

いたたまれなくなった茜は、花瓶の水を入れ替えると言って一人病室を後にする。

同じ頃、孝之の部屋では、これからの二人のことが気がかりでならない水月が、心配そうに孝之に話しかける。

「遙がよくなったら・・・そしたら、あたしたちのこと話すよね」

あの事故から3年。
自然の流れで付き合い始めた孝之と水月だったが、意識が戻った遙の前では、遙の彼氏でい続ける孝之。
そして、それがいつかまた本当のことになってしまうのではないかと不安に駆られる水月。
朝、久しぶりに通りかかった高校が、昔と大きく変わっていたことに少なからず寂しさを覚えた水月は、楽しかったあの頃を思い出しながらも、今の孝之との幸せな生活がいつまでも続けばいいと心から思っていた。

「あたしには孝之しかいないから。孝之しか・・・」

そういって寄り添ってきた水月を、孝之は優しく抱きしめ返した。





時は流れ、ここは孝之のバイト先、スカイテンプル。
今日も今日とて大空寺の子守をする孝之に、崎山店長が声をかけてくる。

「実は今夜のシフトに急に欠員が出まして、もしできればお願いしたいと」

だが、夜は遙のお見舞いに行くことにしていた孝之。
店長の頼みを断り、病院へ向かった孝之は、エレベーターの前で茜とすれ違う。
一瞬にして表情が曇る茜。
孝之の見舞いを快く思っていない茜は、すれ違いざまに吐き捨てるように孝之に声をかける。

「懲りないんですね」

そのまま目も合わさぬまま、階下へ降りていく。

病室での孝之は、3年前に戻って、遙のいい彼氏を演じていく。
ところが、遙の一言が、どうしようもなく孝之の感情を揺さぶる。

「ねぇ、おまじないしよう」

一瞬何もいえなくなる孝之の手を取り、懐かしいフレーズを刻む。

「夜空に星が瞬くように 溶けた心は離れない たとえこの手が離れても ・・・」
「遙、それは元気になってからにしよう」

おまじないが最後まで終わる前に手を解く孝之。
その真相は、いまだに水月のことを遙に伝えられていないことへの自責の念か・・・?

その帰り、バスを待っていた孝之は、遙の両親に声をかけられる。
孝之のためだと、遙の見舞いに来ないでほしいと頼んだ父の願い。
それは、今遙が必要としている孝之に、できる限りでいいから顔を見せに来てやってほしいというものだった。

「こんなことが頼める立場じゃないことはわかっています」

そういいながら深々と頭を下げる遙の父を前に、複雑な思いで返す孝之。

「遙は、僕にとって一番大切だった人ですから」

自然と口をついて出た言葉は、気づかぬうちに過去のセリフになっていた。





孝之のアパートでは、水月がいつものように夕食を作って待っていた。

「ねぇ、遙、どうだった?」

孝之が遙の見舞いに行くたびに不安になっていく気持ちを抑えて明るく振舞う水月。
一方、明日の仕事のことを気にして帰らなくていいのかとたずねる孝之。

後日、孝之は慎二の大学を訪ねていた。
遙の近況を伝える孝之に、慎二は念を押すように問いただす。

「お前、まだ涼宮のことが」
「速瀬を裏切るなよ?」
「頑張れよ。好きなんだろ?」

慎二の包み隠さない一言一言に、少なからず元気をもらった孝之。
対照的に、水月は、神妙な面持ちで、意を決したように遙の病院を訪れる。
そこで、茜と出くわし、思わず足が止まる水月。

「こんなに鈍い人だとは思わなかった」

とげのある言葉を投げ捨てる茜。

「帰ってください」

水月の必死の投げかけにも聞く耳を持たない茜は、そういって水月を追い返してしまう。
入れ替わりで孝之が現れる。

茜はあらためて捨て台詞を吐いてその場を後にする。
孝之のことを案じる不安そうな目は、茜本人しか知らないものだった。





その日もいつものように遙を見舞いに病室へ足を踏み入れた孝之。
高校時代の懐かしい話に花を咲かせる遙と孝之。

受験生ということもあり、受験への不安を口にする遙と、受験に失敗してフリーターをしている孝之。
遙はその不安を払拭するように、あらためておまじないをしようと切り出す。

「おまじない、いや?」

固まって動けなくなっていた孝之に優しく声をかける遙。
そして孝之は、覚悟を決めたようにおまじないのフレーズを刻みだす。

「夜空に星が瞬くように 溶けた心は離れない たとえこの手が離れても 二人がそれを忘れぬ限り」

そして、部屋に戻った孝之の目に飛び込んできたのは、水月が作ってテーブルに綺麗に並べられた夕食だった。
水月・・・遙・・・
2人の間で揺れ動く孝之。

物語は、動き始める。
運命のとき、最後のときは、刻一刻と近づいていたことを、孝之は、水月は、遙は、知る由もなかった。


2009/02/24

君が望む永遠 第5話

話は少し戻って、遙が目覚める前の孝之・水月・茜たちの物語。
それは、ちょうど今日のように、雨が降っていた。
あの事件をきっかけに、水泳の調子を崩していた水月は、結局タイムも振るわず、一人さびしく会場を後にする。
傍らには、その様子を心配そうに見つめながら、ただ見送るしかない茜の姿があった。

卒業式。
同じく遙の一件があってから、完全に道を外れてしまった孝之は、学校行事はおろか、学校自体にも行かなくなってしまっていた。

時は流れ、その後。
相変わらず孝之を気遣う水月は、会社の合間を縫って孝之のアパートを訪れる日々が続く。

「ほ~ら。たまには日に当たらないと、カビが生えるわよ」

昼休みに抜け出してきた水月は、時間に終われるように再び職場へ戻る。
その途中、偶然慎二が車に乗って通りかかる。

「よぉ、速瀬。何慌ててんの?」

グッドタイミングとばかりに、会社まで送ってもらう水月。
車内では、どちらからともなく孝之の話題になる。

「もう、いい加減、ほっとけよ」

優しさから、時には突き放すことも大事だと諭す慎二。
重々わかっているつもりでもなかなかそれができない水月は、うつむいた表情で慎二の話を聞く。





そんなある日、茜が水月の職場を訪ねてきた。
いまや、以前の水月同様、水泳部の期待の星として活躍している茜。

「部活のほうも、若手注目株として、成績急上昇中です」

そんな茜だったが、部員たちの考えが腑に落ちない様子で、水月に相談を持ちかけてきた。

「だって・・・先輩のこと、悪く言ってた」

本当のことなんて何も知らないくせに、うわべだけで人を決め付ける風潮に、ほとほと嫌気がさしていた茜だったが、その思いを水月に聞いてもらい、心なしかすっきりとした表情になる。
最後にこう付け足して・・・。

「先輩・・・これからも、お姉ちゃんとお兄ちゃんのことをよろしくお願いします」

その目には大粒の涙が浮かんでいて、茜も例外なくあの事故の被害者であることを思い知らされる。

帰り道。
茜に、泳ぎのフォームをビデオでチェックしてほしいと頼まれた水月は、自分で役に立てるのならと快く引き受ける。
その足で孝之のアパートに向かった水月は、一通り食事の準備を終えた後でそのビデオテープを手に取る。
その中には、伸び伸びとしたフォームでプールを泳ぐ茜の元気な姿が映っていた。
以前の自分と重なるところがあったのか、水月は思わず目をそらしてしまう。

そこへ、孝之が帰ってきた。
食事の最中、水月は、今度の日曜日にどこかへ出かけようと孝之を誘い出す。
断られると思っていた水月は、孝之の思わぬ返事に一瞬驚いた表情を見せる。

そして日曜日。
水族館へ足を伸ばした孝之と水月。
相変わらず少し煙たそうな孝之と、少しでも気分転換になればとはしゃぐ水月。
売店で見つけたイルカとタコのマグカップを手に取り、楽しそうに水月は孝之にくっついてくる。

「これ、かわいいと思わない?」

その帰り、孝之の素直な気持ちが、そのまま口をついて出る。

「今日はありがとな」

その言葉に、少し安心した水月は、いったん孝之と別れる。





水月と別れた後、孝之は何気なく通りかかった書店の前で、絵本作家展のポスターを目にする。
それは、遙が事故にあった日、2人で行こうと約束していた展覧会だった。

展覧会のことよりも事故のことが脳裏によみがえった孝之は、その足で何かに誘われるように電車に乗り、気づけば以前遙と初めてデートに言ったときに訪れた駅のホームに立っていた。

そうとは知らない水月は、帰りが遅い孝之を心配し、慎二にも連絡を入れてみる。

「孝之? いや、こっちには来てないぜ」

その頃孝之は、面会時間の終わった病室にいた。
昔のことを、さもこの前のことのように遙に言って聞かせる孝之は、遙を強引に絵本作家展へ連れて行こうと病院から連れ出そうとする。
もちろん、周りに制止させられたが、その様子を見ていた水月は茫然自失。

「どうして・・・こんなことになったのかなぁ?」

そしてついに、遙の父にまで、もう会いに来ないでほしいと告げられる。
それは、孝之が迷惑だからという理由ではなく、その様子を見ているのがつらすぎるからだった。

「もう遙に会いに来ないでくれ。わかってくれ。これはキミのためでもあるんだよ」

自暴自棄になりかけていた孝之のそばにいたのは、茜でも遙でもない、水月だった・・・。





雨に打たれてようやくたどり着いた孝之の部屋。
濡れた体を気づかう水月だったが、その声にすら反応を示さない孝之に、水月の声も知らずと大きくなっていく。

「あなたは生きてるでしょ? 答えてよ!」

今まで抑えていた、抑えようとしていた孝之への気持ち。
これ以上自分に嘘がつけなくなっていた水月は、その思いを孝之にぶつける。

「遙を裏切れないから・・・でも、でももうだめなの。もう見ていられないの」

そして・・・

「あたしじゃだめ?」

次の日、会社をサボった水月は、意を決したように美容院へ入っていく。
自慢でもあった長い髪をバッサリと短くした水月。

一方、遙の父とのやり取りを露も知らない茜は、孝之を心配してアパートまで足を運ぶ。
そこで茜が目にしたものは、一糸まとわぬ姿でベッドに横になっていた水月だった。

「ずっと・・・ずっと・・・だましてた・・・」


2009/02/18

君が望む永遠 第4話

以前、一緒に住もうと言い出した水月を気づかってか、自らその話を持ち出す孝之。
だが、水月は、少し平静を装うようにやわらかく断ることに。

その一件があってから、仕事でもプライベートでもどこか歯切れが悪くなる水月。
仕事中でもぼーっとしてしまう時間が多くなり、先輩の石田さんにも逆に気遣われてしまうこともしばしば。

一方の孝之も、水月がふさぎがちになっているのをなんとなく感じていた。
バイト先の電話から、水月と連絡を取る。

「今日上がった後って、用あるのか?」

だがタイミングの悪いことに、会社の電話を使用に使っていた現場を、大空寺・玉野たちに抑えられてしまい、絶体絶命のピンチ?





孝之に呼び出されて待ち合わせの場所へ向かった水月。
何をするのかと訝しがっていると、孝之はおもむろに駅前の不動産屋の物件を物色し始めた。
すぐに引っ越すのは厳しいかもしれないけれど、将来的には・・・。
その孝之の優しさに思わず涙が出てしまう水月。
2人は、ゆっくりと時間をかけて、同居するアパートを探し始める。

「今の俺たちには、俺たちに生活がある」

その頃、献身的にお見舞いと看病を繰り返していた茜。
今日も、水泳大会に地区優勝を報告しに、いつものように病室に足を運ぶ。
だが今日だけは、いつもとは違っていた。
身動き一つしなかった姉の遙の手が、ベッドから出ていたのだ。
目を疑った茜は、そっとその腕を手に取る。
すると、かすかに握り返すようなそぶりさえ見せた。

「先生・・・香月先生・・・おねえちゃんが・・・! 先生!!」

一方の孝之と水月は、今日は楽しく孝之の部屋で夕食。
さぁ、これから食べようとしたその時、部屋の電話が鳴る。

「大空寺だ。夜番押し付けられたからその腹いせか」

だが、電話の主は大空寺ではなく、茜だった。
神妙そうな声色で、一つ一つ言葉をつむぐ茜。
そして、その言葉に思わず身動きが取れなくなる孝之と水月。

「お姉ちゃんが・・・目を覚ましました・・・」

あわてて受話器を手に取ったが、時すでに遅し、切れた電話は、無機質な機械音を繰り返すだけだった・・・。





「病院にはいかない・・・いけないよ」

ひとしきり思いをめぐらせた孝之は、そう口を開いた。
だが、部屋の隅で小さくなっていた水月は、孝之を励ますように声をかける。

「一緒に行こう。明日」

そして迎えた翌日。
病院の前まで来た孝之だったが、やはりあと一歩が踏み出せない。
水月はそんな孝之を隣で支えるように、そっと手を取り、病院内へ歩を進めていった。

2人はナースセンターで、懐かしい顔と出くわす。
遙を担当していた医師の香月先生。
先生は、これから遙に会わせる2人に、一つだけ守ってほしいことがある、と神妙な声音で切り出す。

「時間の経過。事故から3年がたっているってことは、彼女には言わないで頂戴」

その言葉に、一瞬意味がわからず戸惑う孝之たちだったが、ついに目の前の扉が開かれた。





病室に入った2人の目に最初に入ってきたのは、昔の中学校の制服を着た茜だった。
2人にはまだ状況が飲み込めない。
そして目線は、ベッドの上、静かに寝息を立てているだけだったはずの遙へと注がれる。
そこには、少し起こされたベッドに、確かに目を開いた遙がいて、昔と変わらない笑顔を孝之たちに向けていた。
まるで、あれから3年もたっている、ということのほうが夢のように。

「ありがとう。でも、絵本作家展終わっちゃった。またどこかでやるかなぁ」

その言葉に、はっとする孝之と水月。
すでに3年がたっているのに、遙はまるで昨日のことのような口ぶりで話しかけてくる。
そしてこれが、先に香月先生が2人に忠告していたことだと気づく。

「大丈夫だよおねえちゃん。絵本作家展また絶対やるから」

あわてたように取り繕う茜。
何がなんだかわからぬまま、少し無理をした遙を休ませるように病室を後にする孝之と水月。

「ちょっといいですか」

帰りの廊下で行き場のない気持ちを必死に抑えていた孝之たちに、茜が声をかける。
そして、3人は病院の外へ。
遙の目の届かないところへ来た茜は、同じくやり場のない気持ちと、この3年間の思いを水月にぶつける。

「一番の親友に裏切られた姉さん、かわいそう」
「鳴海さん、姉さんはあなたを必要としています。そばにいてほしいと思っています」

そして・・・

「あなた・・・卑怯者です」


2009/02/15

君が望む永遠 第3話

時は流れ、当時の4人はそれぞれの道を進んでいた。
孝之と水月も例外なく・・・。

その孝之は、ファミレスでアルバイトをしていた。
そのファミレスで今日に限らずトラブルが発生する。
同じアルバイトの大空寺あゆが、客からのオーダーを間違えて絡まれていた。
その時・・・

「ごるぁ~! 何さらしとんじゃ、このボケども~!!」

レストランに、店員らしからぬ罵声と怒号が飛び交う。
同じくバイト仲間の玉野まゆや崎山店長も、困り果てていたところへ、孝之が割ってはいる。

「どこの世界にイチゴパフェとオニオングラタンスープを間違えるやつがいる!?」

必死に諭そうとする孝之だったが、大空寺は相変わらず聞く耳を持たない。

「お前なんか、ネコのウンコ踏め~!!」

三度、ファミレスにあるまじき大声が店内に響き渡った。





バイトも終わり、今日は慎二と3人で居酒屋へ。

「久しぶりだな、3人揃うの」

慎二は高校卒業後、大学へ。
大学では4回生の追い出しコンパの幹事を務める頼られぶりの慎二。
少し肩身が狭そうな孝之と水月だったが、久しぶりに顔をあわせた昔のなじみで、すぐに時間が過ぎていった。

駅で慎二を見送った孝之と水月。
明日も仕事で早く出なければいけない水月を気遣う孝之だったが、今日はもう少しだけ一緒にいたいという水月。
付き合い始めて長いが、時折見せる奥の深い瞳が、さまざまな過去を思い起こさせる。

その夜、水月が唐突に切り出す。

「ねぇ、一緒に住もうか」

将来の淡い夢を語る水月と、少しだけ冷ややかに現実を語る孝之。

「無茶言うなよ、急に。いくらかかると思ってんだよ」





翌朝、孝之の家から直接会社へ向かう水月。

「住むか? 夜言ってたろ」

突然の言葉に一瞬戸惑う水月。
だが水月には思うところがあった。

「ここは3年前のままなのよ、孝之」

複雑な表情のまま、水月は出社していった。
会社では先輩の石田さんに注意されてしまう。

「昨日、彼氏んとこ泊まってきたでしょ。着替えくらいおいときなさいな、みっともない」

一方、孝之のバイト先、「すかいてんぷる」では、かの大空寺がゴールド免許を玉野に見せびらかしていた。
もちろん、一度も車を運転していないのだからゴールドになるのも当たり前。
だがその玉野も、免許はとっても運転はしないという。

「事故が恐ろしいゆえ・・・」

その言葉に、思わずはっとなる孝之。
忌まわしい過去の出来事が一瞬頭の中をよぎる。





今日も外回り営業で先輩に同行する水月。
サンプルを大量に両手に持ち、時折時間を気にしながらあとをついていく。
その道すがら、ジムのプールの横を通りかかったとき、水月の脳裏に昔の思い出がよみがえる。

それは、高校のころ水泳部のエースとして活躍していたころの記憶だった。

「水月、頑張れ~!」

遙が無邪気に応援してくれていたころの自分と、今の自分。
似ても似つかない現状に、思わず立ち尽くしてしまう水月。

その日の夜、水月は孝之を呼び出した。
そして近くの店に入った2人。

「ねぇ、はっきりしようよ私たち。このままじゃ、ダメだと思うの」

水月の素直な気持ちを受け、一瞬黙ってしまう孝之。
少し間をおいたあとで口を出た言葉。

「好きだよ」

だがなぜだか、目だけは微笑んでいなかった・・・。

店を出て再び駅へ向かう孝之と水月。
そこで、懐かしい顔を見かけた。
そう、遙の妹の茜だった。

いまや水泳部のエースとして頼れる先輩になった茜。
可愛い後輩を見送り、茜も向かうべきところへ向かおうとするところに、孝之に寄り添った水月と目が合う。

「茜、久しぶり」

思い切って声をかけた水月だったが、茜は目もあわせようとしない。
代わりに孝之に話しかける。

「鳴海さん、ご無沙汰してます」

久しぶりに会った茜は、昔のような屈託のない笑顔を向けることは一切なかった。

「これから病院なんです。急がないと面会時間に間に合わないので。失礼します」

思わず左手の指輪を隠すように、そっと手を重ねた水月と、それを気遣う孝之。
目をやれば、そこには昔のように公衆電話のBOXが、今は綺麗に建て直されていた。

そう、まるで何事もなかったかのように・・・。


2009/02/08

君が望む永遠 第2話

孝之と遙の、初めてのデートらしいデート。
駅で待ち合わせていると、見知らぬ女の子が話しかけてきた。

「合計35点。合格には程遠いですねぇ」

彼女の名前は涼宮茜。
遙の妹。
水月を目標に、日々水泳に打ち込む元気な女の子。

電車に乗って目的地へ向かうも、前日の疲れでついつい車内でうとうとしてしまう孝之。
気づけばそこは見知らぬ駅で、当然、目的の駅は通り過ぎてしまっていた。
謝る孝之に、手作りのミートパイを差し出す遙。
田舎の駅のベンチに腰かけ、2人きりで寄り添いあう。

家に帰ってきたころにはすでに暗くなっていた。
家の前で話していると、朝あった妹の茜が帰ってくる。
お呼ばれはしたものの、時間も時間だからと遠慮していると、半分強引に家の中に連れて行かれる孝之。





突然の訪問にもかかわらず、温かく迎えてくれる遙の両親と妹の茜。

「将来のことはともかく、鳴海くん、付き合っている間は、遙を大事にしてやってくれ」

そういわれた遙の父親に、思わず襟を正す孝之。
それでも悪い気がしなかったのは、家に上がらせてもらう前の不安よりも、遙や家族の優しさがあったからだろう。

一方の水月は、ここ最近、水泳のタイムが伸び悩んでいた。
放課後や休日も一人でプールに足を運び自主練習を繰り返す日々。
遙とのデートの日、家の電話に何度も着信があったのが気にかかり、孝之は一人、学校のプールへ赴く。
その日は、町のお祭りの日。
遙と約束はしていたものの、水月を放っては置けなかった孝之は、思い出の丘で水月の話を聞くことに。

そこへ、親友の慎二が遙を連れてやってくる。

「今日二人でお祭り行くからって、涼宮をほっぽっといて何してんだ!?」

そうとは知らなかった水月は、孝之に頼んで悩みを聞いてもらっていたことを遙たちに打ち明ける。
誤解もとけ、あらためて4人でお祭りに行くことに。
その前に、慎二のカメラで記念撮影をしようという話になる。
思えば、4人で写真を撮るのは、もちろん初めてだったが、これが最後の4人の写真になるとは、このとき誰一人として思いもしなかった。





お祭りの帰り、遙の部屋に上がらせてもらうことになった孝之。
初めての女の子の部屋ということもあり、妙に緊張してしまう。
部屋には様々な絵本。
将来は絵本作家になりたいと、小さな夢を語る遙に、孝之も思わず共感してしまう。

「そのときはさ、4人の友達の話、書いてくれよ」


そこへ突然帰って来た両親と茜。
いい雰囲気だった2人は驚いて平静を装う。
そんな怪しげな2人に茜の目も興味津々。

「もしかして、お姉ちゃんのこと食べた?」


思わず吹き出してしまった2人だったが、それでも応援してくれている茜に心が安らぐ。
そして再び二人きりになった部屋で、遙が孝之におまじないを教える。
いつまでもずっと、一緒にいるためのおまじない・・・のはずだった。

「夜空に星が瞬くように、とけた心は離れない  たとえこの手が離れても、二人がそれを忘れぬ限り」


そして迎えた次のデートの日。
今日の待ち合わせは、柊町駅前。
遙との待ち合わせの前に慎二と喫茶店で話しこむ孝之。
白陵大学の入試参考書と、遙が以前探していた絵本を片手に、約束の場所へと足を急がせる。





その途中、偶然にも水月に呼び止められた孝之。
今日が誕生日だという水月に、露天で売られていた小さな指輪をプレゼントした。

「孝之ありがとう。あたしこれ、ずっと大切にするね」

プレゼントされた指輪を薬指にはめ、嬉しそうに微笑む水月。

そして改めて駅前へ急ぐ。
そこには、遙の姿ではなく、代わりに何十もの人垣ができていた。

「事故か・・・?」

胸騒ぎを覚えた孝之は、急いで遙を探し始める。
だが、そこにいるはずの遙は、どこにもいなかった。
代わりに孝之が目にしたものは、すでに原形をとどめていない公衆電話のボックスと、その周りについた生々しい血のあと。
そして、遙が愛用していた小さなリボンだけが、その血の海にポツリと漂っていたのだった・・・。


2009/02/07

君が望む永遠 第1話

記念すべき第1回目のレポは、昔懐かしい「君が望む永遠」。
 
「ヘタレ」という単語を定着化させたといっても過言ではない、本作品の主人公、鳴海孝之。
孝之とのデートの待ち合わせ最中に不運な事故で3年という空白の時間を過ごした、涼宮遙。
遙の事故という現実に押しつぶされそうな孝之をそばで支え続けてきた、速瀬水月。
三人三様の想いの行き着く先は・・・?
 
今回はその第1話をご紹介。
 
まだ運命の分岐点よりも前、孝之・慎二・遙・水月は、高校生活をそれぞれ満喫していた。
ある日水月は、孝之の下へいつもの丘まで来てほしいと頼み込む。
乗り気じゃなかった孝之は、しぶしぶ言われた丘へ向かったが、当の水月本人はまだ来ていない。
そこに現れたのは、水月ではなく、遙だった。
 
お互いまだ顔しか知り合っていないような状態だったが、遙の口から思いもかけない言葉が出てくる。

「好きです・・・私と・・・付き合ってください」

一瞬戸惑った孝之だったが、遙の告白を受け、二人は付き合い始めることに。




その日の夜、孝之の部屋の電話が鳴った。

「ちょっとびっくりしたと思うけど、遙、本気だから」

電話の相手は水月だった。
気のせいか、歯切れの悪い電話越しの声に、孝之も少し考えをめぐらせてしまう。
 
そして時は流れ、孝之と遙が付き合い出して、1ヶ月ほどがたとうとしていた。
相変わらず一緒に帰るだけの二人に業を煮やして慎二と水月はデートの段取りを裏で整える。
計画されたデートは、遙も好きだという映画鑑賞。
慎二にもらったチケットを握り締め、思い切って遙を誘おうとする孝之と、それを知ってか知らずか、妹に映画を誘われていることを孝之に話す遙。
遠まわしの優しさのつもりか、孝之は妹と映画にいってあげな、と遙に声をかけてしまう。
 
そしてその夜、今度は遙からの電話の呼び出し音が孝之の部屋に響き渡る。

「鳴海くんは、私のこと、好きですか?」

誰かと付き合うということに慣れてもいなかった孝之は、遙と付き合うこと、付き合っていること自体に疑問を持ってしまっていた。

「ごめん・・・わかんない・・・」
 
電話の向こうで思わず嗚咽を漏らしてしまう遙。




その日以来、孝之と遙はすれ違いが多くなっていった。
孝之が遙に会いにいっても、遙は先に帰っていたり、目が合っても逸らされたり。
 
夏休みが始まる最後の日。いつもの丘の上で一人黄昏ていた孝之のところへ、水月が顔を出す。

「遙ね、1年生のときから、孝之のこと好きだったんだよ」

それを聞いた孝之は、目が覚めたように、偶然帰りの駅のホームで見かけた遙を、半ば強引に告白された丘へ連れて行った。
 
孝之の本当の気持ちを伝えるために。
できることならば時間を戻してでも、やり直したい、そう遙に伝えるために。