話は少し戻って、遙が目覚める前の孝之・水月・茜たちの物語。
それは、ちょうど今日のように、雨が降っていた。
あの事件をきっかけに、水泳の調子を崩していた水月は、結局タイムも振るわず、一人さびしく会場を後にする。
傍らには、その様子を心配そうに見つめながら、ただ見送るしかない茜の姿があった。
卒業式。
同じく遙の一件があってから、完全に道を外れてしまった孝之は、学校行事はおろか、学校自体にも行かなくなってしまっていた。
時は流れ、その後。
相変わらず孝之を気遣う水月は、会社の合間を縫って孝之のアパートを訪れる日々が続く。
「ほ~ら。たまには日に当たらないと、カビが生えるわよ」
昼休みに抜け出してきた水月は、時間に終われるように再び職場へ戻る。
その途中、偶然慎二が車に乗って通りかかる。
「よぉ、速瀬。何慌ててんの?」
グッドタイミングとばかりに、会社まで送ってもらう水月。
車内では、どちらからともなく孝之の話題になる。
「もう、いい加減、ほっとけよ」
優しさから、時には突き放すことも大事だと諭す慎二。
重々わかっているつもりでもなかなかそれができない水月は、うつむいた表情で慎二の話を聞く。
そんなある日、茜が水月の職場を訪ねてきた。
いまや、以前の水月同様、水泳部の期待の星として活躍している茜。
「部活のほうも、若手注目株として、成績急上昇中です」
そんな茜だったが、部員たちの考えが腑に落ちない様子で、水月に相談を持ちかけてきた。
「だって・・・先輩のこと、悪く言ってた」
本当のことなんて何も知らないくせに、うわべだけで人を決め付ける風潮に、ほとほと嫌気がさしていた茜だったが、その思いを水月に聞いてもらい、心なしかすっきりとした表情になる。
最後にこう付け足して・・・。
「先輩・・・これからも、お姉ちゃんとお兄ちゃんのことをよろしくお願いします」
その目には大粒の涙が浮かんでいて、茜も例外なくあの事故の被害者であることを思い知らされる。
帰り道。
茜に、泳ぎのフォームをビデオでチェックしてほしいと頼まれた水月は、自分で役に立てるのならと快く引き受ける。
その足で孝之のアパートに向かった水月は、一通り食事の準備を終えた後でそのビデオテープを手に取る。
その中には、伸び伸びとしたフォームでプールを泳ぐ茜の元気な姿が映っていた。
以前の自分と重なるところがあったのか、水月は思わず目をそらしてしまう。
そこへ、孝之が帰ってきた。
食事の最中、水月は、今度の日曜日にどこかへ出かけようと孝之を誘い出す。
断られると思っていた水月は、孝之の思わぬ返事に一瞬驚いた表情を見せる。
そして日曜日。
水族館へ足を伸ばした孝之と水月。
相変わらず少し煙たそうな孝之と、少しでも気分転換になればとはしゃぐ水月。
売店で見つけたイルカとタコのマグカップを手に取り、楽しそうに水月は孝之にくっついてくる。
「これ、かわいいと思わない?」
その帰り、孝之の素直な気持ちが、そのまま口をついて出る。
「今日はありがとな」
その言葉に、少し安心した水月は、いったん孝之と別れる。
水月と別れた後、孝之は何気なく通りかかった書店の前で、絵本作家展のポスターを目にする。
それは、遙が事故にあった日、2人で行こうと約束していた展覧会だった。
展覧会のことよりも事故のことが脳裏によみがえった孝之は、その足で何かに誘われるように電車に乗り、気づけば以前遙と初めてデートに言ったときに訪れた駅のホームに立っていた。
そうとは知らない水月は、帰りが遅い孝之を心配し、慎二にも連絡を入れてみる。
「孝之? いや、こっちには来てないぜ」
その頃孝之は、面会時間の終わった病室にいた。
昔のことを、さもこの前のことのように遙に言って聞かせる孝之は、遙を強引に絵本作家展へ連れて行こうと病院から連れ出そうとする。
もちろん、周りに制止させられたが、その様子を見ていた水月は茫然自失。
「どうして・・・こんなことになったのかなぁ?」
そしてついに、遙の父にまで、もう会いに来ないでほしいと告げられる。
それは、孝之が迷惑だからという理由ではなく、その様子を見ているのがつらすぎるからだった。
「もう遙に会いに来ないでくれ。わかってくれ。これはキミのためでもあるんだよ」
自暴自棄になりかけていた孝之のそばにいたのは、茜でも遙でもない、水月だった・・・。
雨に打たれてようやくたどり着いた孝之の部屋。
濡れた体を気づかう水月だったが、その声にすら反応を示さない孝之に、水月の声も知らずと大きくなっていく。
「あなたは生きてるでしょ? 答えてよ!」
今まで抑えていた、抑えようとしていた孝之への気持ち。
これ以上自分に嘘がつけなくなっていた水月は、その思いを孝之にぶつける。
「遙を裏切れないから・・・でも、でももうだめなの。もう見ていられないの」
そして・・・
「あたしじゃだめ?」
次の日、会社をサボった水月は、意を決したように美容院へ入っていく。
自慢でもあった長い髪をバッサリと短くした水月。
一方、遙の父とのやり取りを露も知らない茜は、孝之を心配してアパートまで足を運ぶ。
そこで茜が目にしたものは、一糸まとわぬ姿でベッドに横になっていた水月だった。
「ずっと・・・ずっと・・・だましてた・・・」
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